【Wildflowers Letter vol.13】時には昔の話を

なにせわたしの日々には事件も起きなければ、愛すべき猫もいない。
三島ミホ子 2025.05.04
誰でも

 書きたい、なにか無性に書きたい。

 そんな欲求に襲われ急遽スマホでこれを打ち込んでいるのだが、どうも満たさる気がしない。わたしのなかで"書く"という行為は、ペンと紙を使ったものか、パソコンでタイピングするものと認識されているらしい。

 ちなみにわたしのスマホでの文字打ちスタイルは右手の中指だけで打つという、非常にゆっくりタイプ。たまに両手で打っている人を見ると少しぎょっとする。

ツツジのいい季節。

ツツジのいい季節。

平穏な日常もドラマチックな日常も

 なんとなく毎週金曜日に配信していたこのニュースレター。しかし、今週は以前職場でお世話になっていたBさんとの電話の予定が入っていてすっかり失念してしまった(わたしたちは会う予定を決めるように電話する予定を決める習慣がある)。

 ニュースレターを書き始めるとき、大抵の場合はなにを書くかはノープランで始める。本当はもっと配信する予定だったが、意外と一回のニュースレターで書く話題が多くてネタが追いつかず、また仕事を始めたこともあり、今は週一のペースに落ち着いた。

 いや、落ち着いてはいない。一週間のなんとあっという間なことか。慌てて金曜日の夕方から書き始め、途中納豆ごはんを挟み、また書き出す。何故一週間も時間があるのにこんなに余裕がないだと自分を責めもするが、締切に追われている作家ごっこ感覚もあり、なんだかんだ楽しく書いている。

 とりあえず一年続けられたらいいなと思って始めた。気づけばもうすぐ折り返しだ。この半年で変わったことといえば、久しぶりに会った友人なのに、わたしのことはよく知られているという不思議な状況が発生するようになったこと。自分で記事を読み返すことはほとんどしないし、なにを書いたかあまり覚えていないので、驚くことも多いが、やはりこそばゆくも嬉しいものである。

 一週間のVlogみたいな感じで書いてみようかなと思ったことがある。それなら話題に事欠かない。でも、だめだった。なにせわたしの日々には事件も起きなければ、愛すべき猫もいない。とにかく一日中横たわっていたり、まとめて家事をしてはへばってまた横たわったり。いや、そんなはずはと思って朝に書く日記を読み返してもやはりドラマは起きていないようだった。

 また毎日ブログを書いてみようか。そうすれば三歩歩いたら忘れるニワトリな記憶力のわたしでも、毎日の出来事を記録していけるかもしれない。寝て忘れてしまう前に書くものにはきっとなにかが残るだろう。

 でも思い返せば、わたしはなにもなかった日を面白おかしく綴るのが好きだった。通っていた専門学校で、毎日三行日記を書くという宿題があった。基本やる気が起きない二年間だったが、それだけは楽しかった。別に毎日嬉々として書いていたわけではない。ただまとめて書くにしても、どうこねくり回して読者(教師ただ一人だが)を笑わせるかを考えるのが楽しかった。そして多分その日記は面白かった。卒業する際には小説家になってくださいと言われるくらいには。音楽系の学校だったにも関わらず。今思えば、案外それを真に受けている部分もあるのかもしれない。

今でもたまに思い出す言葉

 記憶を遡っていたらもう一つ思い出したことがある。高校生活最後の日の出来事だ。そう、担任は青木先生という名前だった。10年以上ぶりに思い出した。その青木先生が卒業式を終えて教室に戻ったわたしたちを一人ずつ黒板の前に立たせ、一言発言するように言ったのだ。充実した高校生活を送った人しか想定されていない、酷な演出だなと今では思う。なにも考えていなかったわたしは、空気を読んで誰に感謝を述べるでもなく、なぜかずっと心に秘めていたことを言うのに絶好のタイミングだと思った。それは、この教室の窓から見える景色がこの学校で一番いいということだ。

 わたしの高校は日本で二番目に海に近い学校らしく、確かに高速道路が一本挟んでいるだけで、目の前には太平洋が広がっていた。地元民なので海がさほど珍しくも好きでもなかったこともあり、わたしはしたことがないが、授業をサボって海に行くなんて人もいたくらいだ。海と並行して3階建ての校舎が二棟立っていた。海側に立ち並ぶ防風林の真ん中にポツンと門があり、そこから入るとすぐ右に弓道部の練習場があったのを覚えている。3年の教室は海側の校舎の3階で、わたしのクラスはその門のちょうど真正面に位置していたので、防風林に遮られることなく海を一望することができたのだ。そのことにいつから気づいていたのかは覚えてないが、もしかしたら初めて教室に入ったときに目に飛び込んできた光景だったから覚えていたのかもしれない。つまり、自分としては大発見だったのだ。ただ、それをクラスの人に話す機会なんてなかったので、伝えるのが最後の日になってしまっただけだった。

 そんなわたしの独りよがりな発言を聞いた青木先生は嬉しそうに、「わたしは〇〇(わたしの苗字)さんのそういう感性が好きでした」と言った。その一言がなぜが今も忘れられずにいる。嬉しかったわけではないと思う。単純にこういう感覚を感性を呼び、その感性をわたしが自覚する前から好んでいたなんて言われたことが、かなり衝撃だったのだと思う。

 こういう、他人から言われた言葉は良くも悪くも思っている以上に自分に影響を与えていることもあるんだなと、今書きながら思った。

 わたしは大抵書き出さないと過去を振り返ったり、思考を広げたりすることがない。というかできない。だから、今日の書きたい衝動はなにか思うことがあったのかもしれない。それがなんだったのかは分からないが、ひとまずニュースレターはこんなところで終わりにしたいと思う。

 普段は手紙のように書くことを意識しているのでですます調なのだが、今回は手紙というよりひとりごとと言った方がニュアンスが近い気がする。自然といつもと口調が変わった。せっかくなのでこのままお届けしようと思う。

 ではまた次回。 

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