【Wildflowers Letter vol.33】「忖度」では片付けられないもの

安心して本を買わせろや!
三島ミホ子 2026.05.03
誰でも

 こんばんは。一月は行ってしまい、二月は逃げてしまい、三月は去ってしまうのなら、四月には失踪されたミホ子です。

 謎にThreadsで万バズしたのをきっかけに購読してくださった方がたくさんいて、ちょっとどきどきしております。まぁ、緊張したところで実力以上のものが書けるわけではないので、平静を装って今回もやっていこうと思います。それではいってみよー。

カウンセリングのやめどきっていつ?

 このニュースレターでもちょくちょく経過報告してきたカウンセリングですが、実は最近なんの収穫もないためやめようか検討中です。

 なんか、話すことが何もないんですよね。そんなこというと通いはじめた頃の疑心暗鬼さが戻ってきた感じもしますが、多分それとはちょっと違いまして。今の「話すことがない」状態は、心身の不調や悩みを自分で対処できるようになったからな気がしているんです。

 たとえば朝から強い倦怠感で動けないとか、急に激しい絶望感にかられたりとか、今でも全然あるんですが、それを俯瞰してやり過ごす術が身についた感じです。お、今日はパターンBね〜じゃあとことん大人しくしています〜みたいな具合に。

 つまるところ、おそらくわたしはカウンセラーから得られるスキルは大方得たのではないかと思うのです。つまり、とても良い着地ができたのではないかと。とはいえ、急にやめるのは少々怖いし、今がハイになっているだけの可能性も否めません(そう、ハイになっている可能性に気づけるようになりました)ので、今後は月一くらいの頻度にしてもらう予定です。あとメンクリもありますから。主治医はメンクリの方なのでね、困りごとはそちらに相談すればよし、と。

 でもねー、こんな調子のいいこと言っていますが、来る一年後の障害年金の更新のことを思うと超絶不安な今日この頃です。もちろん、働いたお金だけで生活できるようになりたいのは当たり前体操なのですが、お恥ずかしながら週3の時短勤務でヒィヒィ言っているのが現状でして。あと、障害年金の審査が厳しくなってきているとの声が度々聞かれることも不安材料の一つです。減額とかじゃなく、いきなり切られたらどうしよう、とか。

 いや、今からびびったって意味がないことは分かっているんです。更新する際に提出する診断書には三ヶ月以内の体調が反映されますから、今どんな状態だろうと極論関係ありませんから。でも、主治医が持つ印象に大きく左右されるものですから、なんかね。こんなこと言っていると怒られそうですね。へけ。まぁ、わたしが今までしっかり納税してきたからいただいているだけなんですけどね。

出版業界への愛憎

 先日、柚木麻子さんがご自身のInstagramで『BUTTER』の版権を新潮社から河出書房新社に移すことを発表されました。

この度、拙著『BUTTER』の版権を、新潮社様から河出書房新社様に移す決断をいたしました。(中略)今回の判断の背景には、昨年、作家仲間である深沢潮さんに著しい苦痛を与える記事が、彼女のデビュー元である新潮社発行の雑誌に掲載されたことがあります。その後の状況や、彼女にかかった負担、そして孤立について見聞きし、出版というシステムの在り方を深く考え直す契機の一つとなりました。

柚木麻子 Instagram

 作家の深沢潮さんへの差別的なコラムが週刊新潮に掲載された問題に関しては、以下の記事に詳しいです。

 創氏改名という、かつて日本が行った植民地支配における政策名をタイトルに持ってくる書き手の暴力的な浅ましさは言うまでもありませんが、なぜこんな差別的な記事が出版されてしまったのか。版元である新潮社の差別に対する意識の緩慢さを嘆かずにはいられません。

 そんな新潮社に対して最大出力のNOを突きつけた柚木さん。今、世界中の書店の一等地で展開されている本作の版権を移行するにあたっては、どれだけ今の出版業界でトップクラスの影響力を持っていたとしても、容易な決断ではなかったことは想像に難くありません。

 新潮社の件だけでなく、昨今出版業界では様々な問題が浮き彫りになっています。小学館の漫画サイト「マンガワン」では、未成年だった被害者に対する性犯罪で実刑判決を受けた漫画家を、編集側がその事実を把握しながらも別名義で再起用したニュースに大きなショックを受けた方も多いのではないでしょうか。

 今の日本において、作家は非常に不安定な職業です。そんな作家たちの成功の鍵を握り、かつ最大のビジネスパートナーであるのが出版社です。なかでも最大手といえる新潮社や小学館に対して声を上げることのリスクは、深沢さんが会見でおっしゃっていたように、出版業界で生きる者にとって計り知れないものです。もとより個人と会社というパワーバランスの不均衡さが強い関係性においては尚更。

 しかし、「マンガワン」の問題が報道されると、『らんま1/2』や『犬夜叉』の高橋留美子先生をはじめ、多くの漫画家が「マンガワン」からの作品引き上げや小学館での連載中止を発表しました。作家が出版社に異を唱えることのリスクは先ほど話した通りですが、そんななかでも多くの漫画家が毅然とした態度を示してくれたことの心強さたるや。特に性犯罪に激甘なこの国では、大きな意義があると思います。

 それに、日本でこういった連帯ムーブメントって、わたしが記憶する限りそう多くないと思うんですよね。表現者に限らずですが、一人ひとりが何を選択するのかを強く問われる時代になった気がします。つまり『君たちはどう生きるか』ってことですか…。駿、頼むから長生きしてくれぇぇ(わたしはここ数年、いつ駿の訃報が流れてくるかと日々恐れている)。

 というか、わたしたち読者だって忸怩たる思いですよ。わたしの人生のバイブルである小野不由美『十二国記』シリーズの版元は新潮社です。九月に発売予定の新刊短編集を心待ちしているのに、今は新潮社の刊行物を買うことにどこか後ろめたさや複雑な思いを感じざるを得ません。どうして本を買うことにこんな思いをさせられなければいけないのでしょうか。うん、読者たちだってもっと怒っていいはずです。安心して本を買わせろや!

 河出バージョンの『BUTTER』は、6月5日発売予定のようですので、まだ手元にないよーという方はこの機会にぜひ。

 きっと、『BUTTER』版権移行先の河出書房新社だって何かしらの問題を抱えていると思います。それでも、最低よりマシな方へ。柚木さんにすべてを背負わせるのも、全方位100%の正しさを求めるのも違いますしね。それぞれ立場からできることをやっていきましょうや。

正気を保ち続けたい

 数ある柚木作品の中でも一番好きなのは『らんたん』です。以前にもこのニュースレターで書いたレビューの通り、時代も立場も超えたシスターフッドに胸が熱くなる最高な一冊なのですが、最近は作中のある描写がよく思い起こされます。日本の女子教育の先駆者であり、恵泉女学園の創設者である河井道は、戦争が長引くにつれ、学校を存続させるために生徒の工場出動や宮城(皇居)遥拝、軍用機献納などの戦争協力を余儀なくされていきます。

アメリカで学んでから四十年、自分なりに権力や男社会と戦ってきたつもりだ。学園を閉じないことが何よりの使命と思い、ぎりぎりの中で、妥協を重ねながらも運営してきた。しかし、気付いたら、大きなものに飲み込まれることに、慣れっこになっている。

柚木麻子『らんたん』

 

 最近、この不穏な社会の中を生きるのが心許なさすぎて、先人たちに知恵を借りようと戦時下の女性作家について色々調べているのですが、わたしの期待とは裏腹に、『らんたん』の道と同様、彼女たちも戦争の波に飲まれていった歴史が見えてきました。

 例えば、男女平等や女性解放を謳ったフェミニストとして知られる与謝野晶子は、特攻隊の前身とも言える「爆弾三勇士」を称賛し、雑誌「婦人部短歌」で戦争賛美の歌を多く発表しました。1938年8月に内閣情報部によって編成された「ペン部隊」は、作家自らが戦地へ赴き、日本軍を神格化した戦場ルポルタージュや戦争協力を美徳とした小説などによって、国民の報国意識を煽ることを目的とした従軍部隊ですが、そこには吉屋信子や林芙美子も名を連ねています。新聞や雑誌が主だったメディアだった当時、文学者は国家にとって大いに利用価値があったのです。

 保身のためだったのか、それとも真に国家主義的な思想に傾倒していったのか、わたしには分からないし、声高々に批判もできません。わたしだって、同じ状況下に置かれれば正気を保っていられるか、正直自信はありません。情報は統制されていただろうし、それまでの主義主張を覆して書くことだけが帝国主義下で生き残る唯一の術だったのかもしれない。そう思うと、彼女たちの本来の声は、国家によって奪われたとは考えられないでしょうか。

 わたしにできることといえば、彼女たちの言葉からその過程を疑似体験して、二度と過ちを繰り返さないための教訓にすることくらいです。彼女たちを軍国主義へと絡めとっていった思想、つまり「母性信仰」や「良妻賢母」は、今も日本社会に漂い、わたしたちを侵食せんとしています。それらを敏感に嗅ぎとって、批判し続けることを忘れずにいたいです。

川勝徳重『アントロポセンの犬泥棒』

川勝徳重『アントロポセンの犬泥棒』

Mihoko’s Recommends. ݁₊ ⊹ . ݁˖ . ݁. ݁₊ ⊹ . ݁₊ ⊹ . ݁˖ . ݁

 もともと平飼い卵や動物実験していないコスメなどを選んで買うようにしていたけど、その「なんとなく」の意識が明瞭になった回。フェミニズム同様、ヴィーガンには多様なスタンスがあり、非ヴィーガンでもほんの少し意識するだけで取り入れられることはある。たまかさん同様、気ままな一人暮らしだからこそ選択しやすいこともたくさんあるなと思った。

 女性たちの戦争加担を検証した論集。苦しくなるけど、おすすめ。  

 俺のマブが携わっている映画祭だよ!5/6まで開催中!

 5月3日の憲法記念日に開催されるこの集会にちょこっと参加するつもりです。予定が合うかたはぜひ。「ごっこ遊び」なめんなー。

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